
幼い頃から白球を追いかけてきた。グラウンドの土の匂い、茶色く汚れたユニフォーム、カキーンとこだまするバットから響く高い音。監督の言葉に子供達が大きな声で応じる。
その風景こそ日本の伝統が受け継がれた結晶。そういう感覚が心の根っこにいまだにある。性格も体格も野球の巧さもバラバラの集団。でも一切それがいびつでなく、上手い具合にパズルのピースが合わさり、埋まっていく。
共通していることはとにかく一生懸命、ガムシャラにボールを追いかけ、時には笑顔で、時には歯を食いしばって単純な練習を繰り返しやり続ける。心から野球を愛する子、親の期待を感じながら頑張る子、仲間を作りたいから始めた子。当然それぞれの野球を続ける気持ちはさまざま。
これは野球だけに言えたことではなく、学校生活や仕事においても結局は同じ原理で成立していると思う。一つだけ違うのは小学生がやる少年野球の現場は、ただただ純粋で美しい。野球が上手くなって、試合で勝つために活躍したいという素直な感情しか存在しないから。
少なくともオレの弟は恵まれた仲間たちと、喜怒哀楽を共有しながら野球に打ち込んでいたはずだ。小学生の弟は中学生になり、その後も兄の期待に応えるべく甲子園を目指して、高校でも野球を続けた。
時の流れは早く、気がつけば高校最後の夏がやってきた。快勝して勝ち上がり、ベスト16を目指して強豪校との大一番に臨んだ。格上相手に一歩も引かず、接戦を演じたが自力で上回る相手に打ちのめされた。
オレの目には少年の時と何も変わらない弟の姿がそこにあった。ボロボロの体でレギュラー選手として戦い抜いた姿は本当に美しかった。甲子園に連れて行くという約束は叶わなかったが、もはやそんなことはどうでもよかった。一つのことに打ち込み、最後までやり抜くことの大切さを弟が身をもって教えてくれた。
彼から流れる涙以上に美しいものをあれ以来見ていない気がする。生きるって塩っぱいぜ。
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