今のオレの原点には彼の存在があった。
指先しか動かない体で画家として生計を立てていた。
雲の上の存在だったが、いつか同じ土俵に立ちたいと思っていた。
言葉で何かを伝えようとするのではなく、生き様で常にメッセージを発信していた。
彼の背中は大きく、放つオーラは柔らかく凛としていた。
彼は家でウジウジしている障害者が一番嫌いだった。
もし、彼と出会っていなければオレもそんなつまらない人間になっていたかもしれない。
歩けなくなってからは、車椅子に乗って延々と先の見えない樹海をさまよっていた。
銀座での個展へ一人で通った17歳の夏。久しぶりに地に足をつけて歩いていた。
彼の背中を追い始めてからは、目的地を見失うことはなくなった。
不思議と次から次へと挑みたい対象が現れ、無心でゴールを目指した。
その積み重ねが今のオレを築きあげた。
師匠亡き今もその魂はオレの中で生き続ける。その大きな背中にいつか触れてみせる。
ただただ驚く師匠の顔が見てみたい。
Comments