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講演活動を積極的にお引き受けしています。少数派である電動車椅子に乗り、呼吸器をつけながら激しい電動車椅子サッカーというスポーツの監督をしながら様々な活動に取り組んでいる私の体験を聞いていただき、既成概念を取っ払い、視野を広げるきっかけにして頂けたら嬉しく思います。一人でも多くの方に!

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無音の世界の先に見える人間の可能性


会場に充満する彼を後押しするエネルギーが波動となり、皮膚から浸透してミエナイチカラが身体中を巡る。きっとそんな特別な感覚があるのかもしれない。チャンピオンは真っ直ぐにメインイベントのタイトルマッチのリングを見据えて、集中力を高めている。間近で観戦するオレに彼の体温と心臓の鼓動が伝わってくる。ガッツポーズする姿を試合後に見せつけてくれ。ただそう願った。チャンピオンの名は郷州征宜。


1ラウンドから彼の持ち前の前に出るスタイルで相手めがけてパンチを繰り出す。接近戦だけに相手のパンチも顔面をとらえるが、そんなのはお構いなし。そんな終盤に彼がペースを握っている中、バッティングで相手の額がチャンピオンにヒットする。目の横がパックリと切れて流血。明らかに故意に見えたが、挑戦者には注意のみで減点はなかった。


ここから勝負の歯車が狂い出す。2ラウンド目は壮絶な打ち合いの末、終了間際に相手のプレッシャーでチャンピオンが倒れた。ダウンの判定こそなかったが、審判に与える心象があまり良くない。そして迎えた最終ラウンド。勝つためには明確な有効打が欲しい。相手も必死に応戦して、両者譲らず試合が終わる。そして、判定の結果、王者陥落。久々に自分以外のことで悔しい思いをした。こぼれそうになる涙をグッとこらえ、「ご苦労さま、そしてありがとう」と控え室に戻っていく彼を見送る。負けはしたが、彼には人を魅了する不思議な力がある。


ふと我に返った。

彼は耳が聞こえない選手だった。試合が終わるまで、無音の状態で闘っていることを意識しなかった。きっとそれは彼が真のファイターだからこそ、一挙手一投足に集中して余計なことを考える余地がなかったからだ。


彼は、耳が聞こえないことで研ぎ澄まされている機能もあるはずで、反面、耳が聞こえないことがハンディキャップになることもあるだろう。ただ、それを凌駕するほどの煮えたぎるような、内に秘めた闘志を感じる。無音の境地の先に彼にしか聞こえない究極の音が存在している気がする。彼を愛するたくさんの人から感じるオーラを身にまとい、これからも闘い続ける。


まばゆい光が彼の目に差し込む。そこには常人には理解できない、誰も入りこめない無の境地が存在するのだろうか。ファンの熱い声援が会場を支配する瞬間に、遭遇することができた。

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