ガサガサと音を立てて、巨大な魔の手が襲いかかる。
無邪気な笑みを浮かべながら、冷淡かつ乱暴に襲いかかる。
まるでおとぎ話の巨大な魔物のようだ。
捕らえた罪なきターゲットを、狭い牢屋に閉じ込める。
そんな日常がそこにはあった。
マンションの隣にある草むらにいると、まるでジャングルにいるような感覚だった。
小学生のオレの小さい体が埋もれるほど、うっそうとした草に覆われたその空間。
そこにオレをさえぎるものは存在しない。弱者とそれを支配する独裁者。
まだまだ容易に動き回ることができたオレにとって、そこは楽園だった。
ハンディキャップがあるとか、対等に友だちとスポーツで競うことができないとか、あらゆる負い目から逃れて、まさにやりたい放題。
そう、バッタなどの虫取りをする事が、何よりも小学生の時は楽しくて仕方がなかった。
眩しい日差しをまともに受けながら、友だちと虫取りに明け暮れていた何気無い日々。
遠出が難しいオレにとって家の敷地のすぐ横に、最高の居場所があった。
あれ以上の自由を、未だかつて味わったことが無い。
きっとこれからも経験することはないと思う。なぜなら、あの草のに匂い、あの生き生きとしたバッタの躍動感、そしてあの感情達は、少年時代にしか遭遇できない、
たったワンテイクの映画のワンシーンだから。
それでも人は自由を求め続ける儚い生き物なんだろうな。
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