北京パラリンピックにおいて、アルペンスキーの村岡桃佳選手が一つの銀メダル、三つの金メダルを獲得した。2大会連続で4種目以上のメダルを手にした、まさに究極のアスリート。
村岡選手のことを見ていると、北京オリンピックで2大会連続の銀メダルの雪辱を果たし、自身初の金メダルを獲得した平野歩夢選手との共通点を感じずにはいられない。
2人に共通していることは、夏季と冬季のオリンピックに出場して、東京オリンピック・パラリンピックが2021年に延期となったことにより、僅か半年間での調整期間にも関わらず、北京オリパラで世界の頂点に君臨したことだ。
平野歩夢選手は前回大会の平昌オリンピック後に、スケートボードに転向して東京オリンピックを目指すことを決めた。そして出場権を獲得して、本戦での結果こそ予選敗退だったが、己のベストを尽くすことに純粋に価値を見出していた。
2人の二刀流の選択の動機は異なる。村岡選手は平昌パラリンピックで出場した5種目でメダルを獲得して、心が満たされた。一回気持ちをリセットして、世界のトップを目指すプレッシャーから自分を解放して、視野を広げてスポーツに打ち込む選択をした。それがパラ陸上に挑戦して東京パラリンピックに出場すること。
その一方、誰もやったことのない前人未到に挑戦したいという野心を持ち、幼い頃から取り組んでいたスケートボードでオリンピックに出場する挑戦を決意した、平野歩夢選手。
きっかけはどうであれ、この二選手が異次元なのは、両者とも見事に東京オリパラに出場したこと。そしてその直後にあった北京オリパラで金メダルを手にしたこと。
それを可能にしたのは、他競技に挑んだことにより本職の競技に活かせる感覚を手にしたことだ。村岡選手は、パラ陸上の車椅子を漕ぐためのトレーニングで体幹が鍛えられ、今まで以上に筋力が増えた。アルペンスキーでは使わない体の動きが、更なるターンや切り返しの安定感を築き上げた。
平野歩夢選手は、足と板がフリーなスケートボードに打ち込んだことにより、足裏の感覚がより研ぎ澄まされ、スノーボードで技を繰り出し着地する技術が大きく伸びた。
そして二選手の共通点として最も大事なポイントは、筋力よりも技術よりも何よりも「メンタル」が飛躍的に強くなったことだ。
自分の本職ではない競技にチャレンジすることで、自分自身を見つめ直し、挑戦者として東京オリパラに挑み、己と向き合うことに重きを置いた。それは常に己の限界を決めずにアスリートである前に、一人の人間として無限の可能性を信じて、現状に甘んじるのではなく、高みを目指す能力を持つ選ばれし者である証。
その過程でさらに精神力が鍛え上げられ、その上、世界の頂点に立つ。それを実現させる両選手から、人類の進化を現在進行形で感じる。それが日本人であることを心から誇らしく思う。
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